それでも僕が憶えているから

「凪さんって今、マンスリーマンションに泊ってるって言ってましたよね? その部屋に冷蔵庫ってありますか?」

「ああ、うん……もちろんあるけど」


いきなり変なことを尋ねられた凪さんが、明らかに反応に困っている。

わたしは尻込みしそうになりながらも、思い切って本題を切り出した。


「じゃあ、明日ハンバーグを作って持って行くんで、蒼ちゃんに会うことがあったら渡してほしいんです。わたしからってことは内緒で」

「ハンバーグ?」

「はい、ちゃんと日持ちがするように冷凍しておきます。だから、お願いします」


語尾と同時に勢いよく頭を下げた。

こんなことをして未練がましいと、自分でもあきれてしまうけれど。どうしてももう一度、ホタルのためにハンバーグを作りたかったのだ。

たとえ本人には食べてもらえなくても、自分自身の区切りのために。

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