それでも僕が憶えているから
何だろう、今の。見間違い?
光の正体を探すように、わたしはふらりと足を前に踏み出した。
目の前には古びた桟橋が、海に10メートルほど突き出している。
その先にあるのは、闇。
空と海の区別もつかない深い闇だ。
一歩、二歩とゆっくり歩いていく。
光はどこにも見当たらない。
潮風が、どんどん強くなってくる。
桟橋はわたしを誘うように、まっすぐ闇へと伸びている。
わたしは吸いこまれるように歩を進めた。
ふと……このまま歩いて行ったらどうなるんだろう、そう思った。
バカなことは考えるな、と頭の中で警告が鳴るけれど、目の前に広がる闇は魅惑的に、やさしくわたしを待っている。
桟橋の先端まで、あと5メートル。
あと3メートル。
わたしの足は催眠術にかかったように吸い寄せられていく。
あと2メートル。
1メートル――…