それでも僕が憶えているから
にわかに鼓動が速くなり、みぞおちのあたりが気持ち悪くなった。車内は冷房が効いているはずなのに、じんわりと汗がにじんでくる。
……今さら何をうろたえているの。蒼ちゃんが今日、ホタルを統合するのは予定していたこと。
そう、わたしもとっくに覚悟していたはず、なのに。
おかしい。息ができない。呼吸ってどうやるんだっけ。心臓の音って、こんなに大きかったっけ。
ああダメだ。落ち着け。深呼吸。酸素、吸わなくちゃ。なんで、ちゃんと吸えないの。
苦しい。苦しい。手、震えてる。
「真緒? どうしたの!?」
お母さんの声が耳鳴りのせいで遠く聞こえた。身を低くかがめていたわたしは、そのまま頭から崩れていきそうになる。
真緒、真緒、とせわしなく呼ぶお母さんの声。返事をしなきゃと思うのに、できない。
ダンゴ虫みたいに背中を丸めたまま、床に転がっていたブレスレットを握りしめた。
深い海の色をした、蛍石のブレスレット。
「つかまって、真緒!」
支えられながら体を起こしたわたしは、ぐったりとシートにもたれかかる。荒いだけの呼吸はちっとも酸素を運んでくれず、溺れているみたいに苦しい。