それでも僕が憶えているから
「……しんどそうなお母さんの顔見ると、わたし、いつも怖かったよ。自分のせいでお母さんにこんな顔させてるんだって、いつかお母さんにまで、あんたなんかいらないって言われるんじゃないかって……」
怖かった。だから必死で頑張ってきた。
でも本当は、本当のわたしは。
「もっと甘えたかった……弱いわたしでもいいって、丸ごと受け入れてほしかったんだよ!」
「真緒っ」
お母さんの叫び声が背後で響いた。タクシーを飛び出したわたしは、小雨の降る中を振り返らずに逃げ出した。
『真緒ちゃんと蒼は、ほんとに似た者同士だね』
息を切らして走りながら、なぜか脳裏によみがえっていたのは凪さんの言葉。
『心をいじめちゃダメだよ。弱い自分を、もっと大切にしてあげてほしい』
怒り。悲しみ。不安。寂しさ――押し殺してきた感情たちが、“気づいてほしい”と泣いて訴えていたのに、わたしはその声を無視し続けてきたんだ。
『どうするべきか、じゃないよ。真緒ちゃんの心は、どうしたいと思ってる?』
ずっと、ずっと考えていた。
わたしは何のために生まれてきたんだろうって。
そんなこと考えてもわからなくて、誰も教えてはくれなくて。
だけどただひとつだけ、空っぽになったこの心の中に、残っているものがあるとしたら。
ホタル。あなたに会いたい――。
今はもう、その想いだけだった。
~Chapter.4