それでも僕が憶えているから

「――っ!」


突然、強い力が左肩に加わった。

誰かにつかまれたのだと理解するより先に、重心が真後ろに傾き、そのまま勢いをつけて橋の上に倒れこんだ。

感じたのは痛みよりも驚き。
何が起きたのかわからないまま、仰向けに倒れた状態で目を見開く。

誰かのシルエットが覆いかぶさるように目の前にあり、そのむこうに広がる夜空で、月が雲から顔を出した。

ほのかな月光の下、わたしは息をのんだ。


「花江くん……?」


かすれた自分の声が、夢の中のセリフのように遠く感じた。
その名前を呼びながらも、ここに彼がいることがすぐには信じられなかった。

白くぼんやりと光る月。
世界にふたりだけが取り残されたような静寂。

いつになく険しい表情の花江くんが、言葉もなくわたしを見下ろしている。

わたしたちは桟橋のはしっこで、重なるように倒れたまま見つめ合っていた。
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