それでも僕が憶えているから




『聞いて。ホタル』


変化が訪れたのはあのときだ。
目的のために千歳を騙した僕を、あいつは強く責めたけれど、そのあと再び手を差し伸べてきた、あの日。


『さっきはあんなこと言って、ごめん。何も知らないくせに、ひどい言葉であんたを攻撃した。言い訳なんてできない。本当にごめんなさい』


……初めてだった。あんな風に誰かに歩み寄られたのは。


『あんたがわたしを切り捨てても、わたしはあんたのこと切り捨てない。お父さんに会いたいんでしょう? 協力するって言ったじゃん。ホタル』


あんな風にまっすぐ名前を呼ばれたのも、初めてだったんだ。




< 285 / 359 >

この作品をシェア

pagetop