それでも僕が憶えているから
『聞いて。ホタル』
変化が訪れたのはあのときだ。
目的のために千歳を騙した僕を、あいつは強く責めたけれど、そのあと再び手を差し伸べてきた、あの日。
『さっきはあんなこと言って、ごめん。何も知らないくせに、ひどい言葉であんたを攻撃した。言い訳なんてできない。本当にごめんなさい』
……初めてだった。あんな風に誰かに歩み寄られたのは。
『あんたがわたしを切り捨てても、わたしはあんたのこと切り捨てない。お父さんに会いたいんでしょう? 協力するって言ったじゃん。ホタル』
あんな風にまっすぐ名前を呼ばれたのも、初めてだったんだ。