それでも僕が憶えているから
出逢わなければよかった。
関わらなければよかった。
僕のこの左手は、絶望しか掴めない。
人を傷つけることしか知らない。
この手で復讐という目的を果たして、消えるだけの存在だったのに。
真緒。お前なんか、
僕の世界には邪魔なだけだ――。
「………」
ふうっと意識が浮上して、ゆっくりまぶたを開くと見慣れない部屋の天井が現れた。
背中に感じる床の感触。静かに響く時計の秒針の音。
……どうやら久しぶりに、人格が交代して僕は外に出たらしい。すっかり馴染みのなくなった体を動かし、のそりと上体を起こした。
「目、覚めたか?」
聞き覚えのある声の方に視線を移す。すぐそばでローテーブルに頬杖をついた男が、笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「……凪」
「おっ。俺の名前知ってくれてるのか」
光栄だな、となれなれしく笑う顔にムカついて、僕は舌打ちをした。けれど凪は意に介さず、ごつごつした手を差し出して握手を求めてくる。