それでも僕が憶えているから

透明の容器にいくつも並んだ、楕円形の小さな物体。色は、以前見た茶色ではなく薄い赤だけど、形ですぐにわかった。

真緒のハンバーグだ。


「蒼が、これはホタルが食べるべきだからって言ったんだ」


……なるほどな。それで交代したってわけか。
僕は冷蔵庫の扉をばたんと閉めて、鼻で笑った。


「この世界から消える前に、最後の思い出にってか? 有難いお情けだな」


どいつもこいつも、人のことを憐れみの目で見下しがって。安っぽい同情の施しをすることで自己満足を得たいだけだろうが。

僕は乾いた笑いが止まらなくなり、冷蔵庫にもたれて肩を揺らした。

久しぶりに交代して外に出たせいか、頭がふらふらする。投げやりな気分になって笑い続けていると、ぼやけた視界のはしで凪が真剣な顔をこちらに向けた。


「ホタル、それは違う。少なくとも真緒ちゃんはお前のことを、ひとりの人間だと思ってるんだ」

「まさか。そんなわけ――」

「その証拠に、ハンバーグを俺に預けたとき何て言ったと思う?」


僕は「あ?」と聞き返す。
目が合うと、凪は一文字ずつはっきり発音するように言った。


「3人分って。真緒ちゃんはそう言ったんだ」


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