それでも僕が憶えているから




――次に意識が浮上したときには、再び蒼の中にいた。


「今日は少し長丁場になりそうだけど、体調は万全ですか? 蒼くん」

「はい。よろしくお願いします」


ノイズのかかった話し声が、断続的に聞こえてくる。その内容から、蒼の会話の相手が医師だとわかった。

どうやらここは病院らしい。
つまり、ついに僕が消される日が来たということだ。


「では今日は予定通り、ホタルの人格を統合します」

「……はい」


蒼たちの会話を、ただぼんやりと聞き流していた。

心は不思議と静かだった。とっくに覚悟はできていたから。

唯一、こないだ凪に託した頼み事だけが、少し気がかりではあるけれど。


「統合の前に、まずはホタルを呼び出して記憶の共有を行います。ホタルの持っている記憶や感情を、蒼くん自身が受け止め――」

「先生」


突然、蒼が説明に割りこんだ。医師が「どうしました?」と尋ねると、しばしの無言をはさんで蒼がたずねた。


「本当に、大丈夫なんでしょうか」

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