それでも僕が憶えているから
Chapter.5 ただひとつの恋
*
《1》
間違っているのかもしれない。
愚かなことなのかもしれない。
だけど、今すぐホタルのところに行きたい――。
わたしの感情がそう叫んでいた。
* * *
市街地のはずれに建つマンスリーマンション。3回続けて鳴らしたチャイムの返事はなかった。
廊下の手すりを打つ雨の音だけが断続的に響いている。
「留守……」
わたしは濡れた肩を落とし、玄関の前で立ち尽くした。
生まれて初めておじいちゃんに反抗したのが数時間前のこと。勢い任せにタクシーを飛び出して、どれだけ走っただろう。
誰にも見つからないよう注意しながら、ようやくたどり着いたのが凪さんのマンションだったのだ。
「どうしよう」
タイミング悪く凪さんは留守らしい。でも、他に行くところなんかない。事情を知らない千歳に頼るわけにもいかないし。
【真緒、今どこ? さっき真緒のお母さんから電話があったよ。なんか、すごく探してるみたいだったけど……】
オフにしていたスマホの電源を入れると、千歳からそんなメッセージが届いていた。