それでも僕が憶えているから
きっと今頃、おじいちゃんは血眼になってわたしを探しているのだろう。わたしのことが心配だからじゃなく、自分の顔に泥を塗られた怒りで。
着信履歴を見ると、案の定そこを埋め尽くしていたのはお母さんの番号。
おじいちゃんの怒りは今、わたしの代わりにお母さんへとぶつけられているはずだ……。
「どうしよう」
もう一度つぶやいてドアの前に座りこんだ、そのとき。
「真緒ちゃん!」
通路の奥の階段の方から声がした。
「凪さんっ」
わたしは弾かれたように立ち上がった。
凪さんが濡れた傘をその場に落として駆け寄ってくる。
「よかった、無事で! いつからここに!?」
「たった今ですっ、家族から逃げてきて、ここしか行くところがなくて」
凪さんのTシャツにしがみつき、すがるようにまくしたてた。
すでに事情を把握しているのか、凪さんはうんうんとうなずきながら、わたしの肩に手をそえる。
「さっき、蒼の家にお母さんから電話があったよ。それで俺も探してたんだ」