それでも僕が憶えているから
「凪さん、どうしよう、わたしまたお母さんに迷惑かけちゃう。
今頃おじいちゃん、絶対にお母さんのこと責めてるんです。わたしが勝手なことをしたせいで……!」
「落ち着いて」
凪さんがわたしの両肩をがっしりとつかんだ。大きな手のひらは雨で湿っていて、けれど温かい体温が伝わってくる。
「今から俺の言うこと、聞ける?」
真剣だけど、やわらかい瞳がのぞきこむ。わたしはあふれ出る不安の言葉を飲みこみ、おずおずとうなずいた。
「ずっと家族のために自分を押し殺してきた真緒ちゃんは、すごく優しい子なんだと思うよ。でもそれは、本当の優しさって言わないんじゃないかな」
「え?」
「だって、一番大切な人を傷つけてる。自分自身だ」
わたし自身……?
「今まで他人のために、どれだけ自分を殺してきた?
真緒ちゃんが一番味方になってあげなきゃいけないのは、他の誰でもなく自分自身なんだ。
どうするべきか、なんて後から考えればいい。
大事なのは自分の気持ちを、君自身がわかってあげることなんじゃないかな」