それでも僕が憶えているから
なめらかな白い肌は、まるでおしろいをはたいたみたい。
半そでの真っ白なシャツからのぞく細い腕や、厚みのない背中なんかも、正直言って水泳選手のイメージからは程遠い。
だけど、あの黒髪が水に濡れたらきれいだろうな……
そんなことをふいに想像して、なんだか少し恥ずかしくなった。
「あっ。今何時だっけ」
大事な用を思い出したわたしは、飛び上がるように立ち上がった。
黒板の上の時計を見上げる。午後6時。
しまった、今日は早く帰らなきゃいけない日なのに。
「ごめん千歳、先に帰るね!」
「急にどうしたの」
「用事忘れてた!」
千歳に謝りながら、ろくに前を見ずに走り出したせいだろう。教室から出た瞬間、何かにぶつかり強い衝撃が体に走った。