それでも僕が憶えているから

以前にも似たことを凪さんに言われた気がする。あのときのわたしは、どうしたいのか聞かれても答えることができなかった。

だけど、今ならわかる。自分はどうしたいのか。

そう心に問いかければ、鮮やかに浮かび上がってくる、たったひとつの願い――。


「……ホタルに会いたい」


ぽつりと言葉を落とすと、同時に涙も一粒こぼれた。


「わたし……ホタルと、ずっと一緒にいたい」


ああ、そうだった。
こんなにも強く心は叫んでいたんだ。

たとえこの感情が過ちでも。
みんなから否定されたとしても。

世界中でわたしだけは、わたしの心を大切にしてあげなくちゃいけなかったんだ。


「真緒」


階段のかげから声が聞こえ、現れた人影にわたしは息をのんだ。

見慣れた黒い髪、華奢な体つき。そして醸し出す雰囲気から、彼が誰なのか一瞬でわかった。


「蒼ちゃん……」


声が震える。


「今日は、病院の日じゃなかったの?」


うん、と蒼ちゃんはうなずいて、それから静かに目を伏せて言った。


「さっき終わった」


身を引き裂かれるような痛みを全身に感じた。

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