それでも僕が憶えているから
“終わった”――その短い言葉が意味するものは、つまり。
「じゃあ、ホタルは、もう……?」
蒼ちゃんはうなずかない。でも、否定もしてくれない。
何も言わない彼の態度が、何を示しているのかは明らかだった。
「……嫌」
わかっていたことだ。
「ホタル……」
この日が来るのはわかっていたこと、だけど。
「ねえ……ホタル」
どれだけ呼んでも二度と届かない人の名前を、それでも呼ばずにはいられなかった。
ホタル。ホタル。
好きだった。もっとそばにいたかった。もっともっと笑顔を見てみたかった。世界中の誰よりも、幸せであってほしかった。
「ホタ――」
「いいかげん出てきなよ、テレてないでさ。ホタル」
――え?
突然の蒼ちゃんの発言に、わたしは涙でぐしゃぐしゃの顔を上げる。
目が合うと、あきれたように苦笑していた蒼ちゃんの表情が、すうっと変化した。
そして次の瞬間、そこに現れたのは、会いたくて会いたくて仕方なかった人。
あの海で決別して以来のホタルが、ぶすっとした顔でわたしを見下ろしていた。