それでも僕が憶えているから

「え……な、なんで? ホタル、統合されたんじゃ」

「このドアホ!」


目を白黒させていたところを、ドスの効いた声で怒鳴られる。

キーンとする鼓膜に追い打ちをかけるように、さらに怒声が飛んできた。


「この僕が目的も果たさずに消えるわけないだろ!」

「も、目的って、まさかやっぱり復――」

「ハンバーグ」

「……へ?」


思いがけない平和な単語に、わたしはきょとんとしてしまった。

ホタルが舌打ちしながら、横目で凪さんをにらみつける。


「どっかのオッサンが、せっかくのハンバーグを焦がしやがったんだ」

「ごめん、真緒ちゃん。実は俺、料理はからっきしダメで」


バツが悪そうなテヘヘ笑いで肩をすくめる凪さん。

ふたりのやり取りから、わたしもようやく意味がわかってきた。
つまりホタルの言っている“目的”は、復讐なんかじゃなくて。


「ホタル……」


夢じゃないよね? 
戻ってきてくれたんだよね?

確認するようにホタルを見つめると、彼はぶっきらぼうに目をそらして言った。


「お前がいなきゃ、僕はハンバーグが食べられないだろ」

「……っ」


高鳴る鼓動がわたしを一気に突き動かす。
本当に久しぶりに、自分でも気づかないうちに、笑顔があふれていた。


「いくらでも作るよ、まかせて!」


わたしはそう叫ぶと、思いっきりホタルに抱きついた。





   * * * 


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