それでも僕が憶えているから

田尻さんが、田尻さんじゃなかった?


「どういうこと? まさか川口先生が嘘をついたってこと?」


田尻さんをわたしたちに紹介してくれたのは、東京で出会った川口先生。
彼も元同級生のひとりだから協力してくれた。

親切で裏表のなさそうなあの人が、嘘をついていたとは思えない。

はてなマークを頭いっぱいに浮かべていると、凪さんが説明をつなげた。


「川口先生っていう人は何も悪くないよ。彼はたしかに本物の田尻尚子さんと連絡をとり、真緒ちゃんたちと会う約束を取り付けてくれた。
だけど約束の当日、田尻さんは見知らぬ男から“行くな”と言われてお金を渡されたんだ」

「男……?」

「まあたぶん、そいつはただの使いっぱしりだけどね。真緒ちゃんたちを見張っていたのと同じ男だと思う」


わたしたちを見張っていた男……思い出した。
あの日、駅の地下通路でホタルと揉み合いになった男だ。

でもあいつがただの使いっぱしりなら、指示した人物は他にいるということ?

なんだかわたしの知らないところで話が進んでいて、頭がついていけない。

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