それでも僕が憶えているから

なんとまあ、よくそんな細かいところに気づいたものだ。小姑か。

わたしは感心を通り越して、恐れ入りましたという気分になる。


「それから」


ホタルが頬杖をつき、声のトーンを落とした。


「別れ際、僕に対して“似てる”と言った。あのときが一番、違和感があったんだ」


別れ際のやり取りはわたしもよく覚えている。なんとなく彼女の様子が切なそうだったから。


『……やっぱり、よく似てる』


ホタルの顔を微動だにせず見つめながら、あのとき彼女はそう言った。
それからホタルが尋ねたのだ。


『まるで生き返ったみたいですか?』

『え?』

『母が』

『……ええ、その通りね。本当に生き返ったみたい』


言われてみれば確かにわたしも、あのやり取りには微かな違和感を覚えた。

でも、何だろう。何が変だったんだろう。


「おそらく、あの女が“似てる”と言ったのは蒼の母親じゃない」

「あっ」


そうか、それだ!

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