それでも僕が憶えているから

あのとき彼女は無意識に、別の人物を思い浮かべていたのだ。

だから、“母が生き返ったみたいですか?”とホタルに聞かれたとき、奇妙な間が空いたのだのだろう。

違和感の正体がわかってスッキリした。

でもまだ推測の域を出ていない。たしかな証拠がない。もう少しで真相が見えそうなのに……!


「ていうか、本当は誰に似てるって言ったんだろう」

「母親じゃないなら、こっちだろうな」


凪さんが人差し指でマウスを弾いた。新たな写真が表示され、わたしは目を見開いた。

写っているのは40代くらいの男性。初めて見る人だ。
だけど、この顔をわたしはよく知っている。


「この人って、蒼ちゃんのお父さん……?」


聡明そうな切れ長の目、柔和な微笑みをたたえた口元。
誰がどう見ても、蒼ちゃんと親子だと一目でわかる。


「萩尾守。都市部を中心にホテルを経営する萩尾グループの副社長だ。
10年前に資産家の娘とお見合い結婚しているのも、蒼の母親の手紙と合致する。
この人が蒼の父親と見て間違いないだろうな」


凪さんが言った。
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