それでも僕が憶えているから
「ちょっとちょっとー、真緒ちゃん」
凪さんがおどけたような口調で間に入ってきた。
「俺のことも少しは褒めてくれる? ここまで調べるには俺の人脈が不可欠だったんだから」
「あっ、すみません。凪さんもすごいです、もちろん!」
「なんかホタルに比べて愛情が足りないなあ」
しれっと“愛情”なんて言われて、顔が赤くなった。
やっぱりわたし、ホタルと再会できた嬉しさで気持ちがダダ漏れになっちゃってるのかな。だとしたら、すごく恥ずかしい。
「……ただ、ひとつだけ解せないのは」
突然、ホタルがぼそっとつぶやいた。
「どうして秘書は自ら、田尻尚子のふりをして会いに来たんだ? 他の人間を雇えば足がつきにくいはずなのに」
「たしかに変だね。共犯は少ない方が安全だと考えたのかな」
わたしの意見に、ホタルが曖昧にうなずく。
キッチンでハンバーグを蒸し焼きにしていたフライパンの蓋が、かたかたと鳴った。わたしはあわててコンロの火を止め、蓋をとった。
ほわぁ、と立ちのぼる湯気。ほどよい焼き目の付き方も、我ながら上出来だ。