それでも僕が憶えているから

でも少しだけ冷静になった頭で状況をふり返ってみると、申し訳なさとバツの悪さがこみ上げてきた。


「本当にごめん。花江くんには関係ないのに、巻きこんじゃって……」


もう一度謝ると彼はやはり何も言わず、おもむろに立ち上がって、近くに落ちていた丸い石を拾った。

何をしているんだろう、と不思議に思うわたしの前で、彼は桟橋から海に石を投げ入れる。


―――瞬間。
真っ暗だった夜の海が、光を放った。


まるでサファイアを散りばめたような、無数の青い輝き。
淡く繊細な光が波に揺られる様子は、青白い炎が揺れているようにも見える。


「何これ」


思いがけない幻想的な光景に呆然として尋ねると、海を見つめたまま花江くんが小さな声で答えた。


「……夜光虫」

< 31 / 359 >

この作品をシェア

pagetop