それでも僕が憶えているから



《2》


目が覚めた瞬間、いつもとは違う朝日の射し方に驚いた。

まぶしすぎる光にまぶたをパチパチさせながら、わたしは辺りを窺った。

あれ? 勉強机がない。
代わりに、見覚えのないテレビボードが目に入る。
黒いローテーブルも、こげ茶色のフローリングも、わたしの部屋にはないものだ。


「起きた?」

「ひゃっ」


わたしは飛びあがるように上体を起こした。


「そ、蒼ちゃん!」


忘れてた、昨夜は凪さんの部屋に泊ったんだった。

ホタルとふたりきりで一夜を過ごすなんてありえないと思っていたけど、疲れのせいですっかり熟睡してしまったらしい。


「おはよう」


蒼ちゃんがクスクス笑いながら、ペットボトルの水を渡してきた。もじもじと受け取るわたしはきっと、ものすごく赤い顔をしているのだろう。


「お、おはよう」


手ぐしで髪を整えながら床に座った。蒼ちゃんもその斜め前に腰を下ろす。


「……あの、ホタルは?」

「ちゃんといるよ。心配しなくても」


よかった。少しでも目を離したらホタルが消えちゃうような気がしていたから。

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