それでも僕が憶えているから
考えてもわからず焦っていると、蒼ちゃんは気持ちを切り替えたようにパッと顔を上げた。
「まあいいや。とりあえず、俺のことも大切に想ってくれてるんだよな?」
「え、うん、もちろんだよ」
「じゃあいい。……負けないからな、ホタル」
そう低くつぶやいたとたん、蒼ちゃんが突然ぷっと噴き出した。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとね、ホタルが怒ってるのが面白くて」
「え? ホタルが?」
今のやり取りを聞いて、どうしてホタルが怒るんだろう。気を悪くするポイントなんてあったっけ?
ますますわからず首をひねるわたしに、蒼ちゃんはイタズラっぽく「まだ内緒」と笑った。
* * *
何かを調べるために徹夜で奔走していたらしい凪さんと、県境に近い駅のロータリーで合流することになった。
『そっちまで迎えに行けたらよかったんだけど、時間がなくてごめんな』
「いえ。こちらこそお世話になりっぱなしで、すみません」
スムーズに合流できれば昼前には東京に着けるだろう。わたしは凪さんとの電話を切ると、蒼ちゃんとともにマンションを出た。