それでも僕が憶えているから

考えてもわからず焦っていると、蒼ちゃんは気持ちを切り替えたようにパッと顔を上げた。


「まあいいや。とりあえず、俺のことも大切に想ってくれてるんだよな?」

「え、うん、もちろんだよ」

「じゃあいい。……負けないからな、ホタル」


そう低くつぶやいたとたん、蒼ちゃんが突然ぷっと噴き出した。


「どうしたの?」

「いや、ちょっとね、ホタルが怒ってるのが面白くて」

「え? ホタルが?」


今のやり取りを聞いて、どうしてホタルが怒るんだろう。気を悪くするポイントなんてあったっけ?

ますますわからず首をひねるわたしに、蒼ちゃんはイタズラっぽく「まだ内緒」と笑った。



   * * * 



何かを調べるために徹夜で奔走していたらしい凪さんと、県境に近い駅のロータリーで合流することになった。


『そっちまで迎えに行けたらよかったんだけど、時間がなくてごめんな』

「いえ。こちらこそお世話になりっぱなしで、すみません」


スムーズに合流できれば昼前には東京に着けるだろう。わたしは凪さんとの電話を切ると、蒼ちゃんとともにマンションを出た。

< 318 / 359 >

この作品をシェア

pagetop