それでも僕が憶えているから
ここからバスで8駅、快速電車で5駅。
途中のバス停はわたしの地元に近いから、おじいちゃんたちに見つからないよう気をつけなくちゃ。
とは言え、あのおじいちゃんのことだ。
わたしを探すために周囲の人たちを巻きこんでいるはず。
ただの知り合いですら、今は見つかれば命取りになるかもしれない。
その心配が的中したのは、わたしたちの乗ったバスが5つめの停留所に停まったときだった。
「あっ」
後方のドアから乗車してきたひとりの男性が、わたしを見て声を上げた。
おじいちゃんの会社の従業員で、たしか乾さんと仲のいい人だ。
「真緒ちゃんっ、こんなとこに――」
「降ります!」
蒼ちゃんが運転席に向かって叫び、わたしの手を引いて立ち上がった。
閉まりかけていた前方のドアが開き、わたしたちはせまい通路を駆け足で抜けていく。
「待ちなさい! 社長がどれだけ探してると思ってるんだ!」
「早く、真緒!」
追手から庇うように背中を押されステップを駆け下りる。
続いて蒼ちゃんがポケットから出した千円札を運賃箱につっこみ、お釣りも受け取らずバスを飛び降りた。