それでも僕が憶えているから

「大丈夫? 蒼ちゃん」

「ああ、うん……」


明らかに大丈夫じゃない。唇は色を失っているし、がたがたと全身が震えている。

その中でも一番震えていたのは左手だ。
もしかして……ホタルも怯えているの?


「かわいそうに。よけいな過去を掘り返したりしなければ、こんな怖い想いをせずにすんだのにね」


一般道を走りながら、福田のぶえが意味深につぶやいた。


「ちなみに真緒さん、あなたも。おじいさんの会社、首都圏進出がかかっている大事な時期なんでしょ?」

「……調べたんですか?」

「そちらの営業マンの乾さんと個人的にビジネスの話をしただけよ。
でもこの先、わたしが副社長に進言すれば一気に話は進むでしょうね。こう見えてわたし、あの人からの信頼は誰よりも厚いから」


つまり今の段階でなら、彼女の一存で白紙に戻すこともできる。そう言いたいのだろう。

話を聞いているうちにだんだんわかってきた。
この人は、ただの秘書じゃない。

もしかしたら……。
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