それでも僕が憶えているから
顔を見るまでもなく一瞬でわかる。この腕から伝わる安心感は、他でもない彼だと。
見上げると、蒼ちゃんから交代したホタルがやっぱりそこにいた。
「大丈夫か?」
「うん……」
運転席では福田のぶえが、ふうふうと息をしながらハンドルを握りしめている。蛇行運転はやめてくれたものの明らかに様子が尋常じゃない。
怯えるわたしを、ホタルの左手が抱き寄せた。
「ああもうっ……目障りなのよ、消えろ、消えろ、消えろ」
うわごとのように聞こえてくる声に、ぞっとした。
いつまた無茶な運転をされるかわからない。生きた心地がしないとは、まさにこのことだ。
そんな状態がしばらく続いたあと、突然スイッチが切り替わったかのように、福田のぶえがニタァと笑って言った。
「もうすぐ目的地に着く。大事な話はそこでしましょう」
* * *