それでも僕が憶えているから


無言のドライブの末にたどりついたのは、海を見下ろすように立つ崖の上だった。

刑事ドラマじゃあるまいし……と突っ込む余裕も今はない。張りつめた空気で胃が切り刻まれそうだ。


「降りて」


無機質な声でうながされ、わたしとホタルは車を出た。

風が強かった。雨はまだ本降りではない。
だけどこのあとの嵐を予想させるには充分の、不穏な天気。

辺りには遊歩道らしきものがあるものの、福田のぶえはそれを無視してゴツゴツした岩の上を歩いていく。

わたしたちも仕方なく後に続いた。

わたしを守るようにぴたりと隣を歩くホタルの顔が、明らかに強張っている。
必死で隠しているけれど、隠しきれない恐怖がひしひしと伝わってくる。

もしかして、この場所って――。

そう思ったとき、振り返った福田のぶえが不気味な薄ら笑いを浮かべた。


「足元に気をつけてね。落ちたらたぶん命はないから。
あ、それとも母親と同じ場所で死ぬのがお望み?」


やっぱり……。

ここは蒼ちゃんのお母さん――水原香澄さんが身を投げた海なのだ。

7歳の蒼ちゃんの手を引いて自ら命を絶った海。

そして、ホタルが生まれた海……。

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