それでも僕が憶えているから
「ねえ、怖い?」
福田のぶえが愉快そうにホタルを見据えて問いかける。
「思い出すと怖いんしょ? 震えてるんでしょ? 実の母親に殺されかけた場所に再び来てみた気分はどう?」
「やめてください!」
ホタルの代わりにわたしが声が荒げて抗議した。
「こんなことして何になるの!? 過去を掘り返すなって言うくせに、あなたの方が人の古傷をえぐってるじゃない! いったい何が目的――」
「萩尾守に近づかないで」
福田のぶえの顔から薄ら笑いが消えた。思わず気圧されるような迫力に、わたしは一歩後ずさった。
「あの女が消えてくれて全部うまくいってたのに。どうして10年も経った今、のこのこと息子が現れるのよ」
「福田さん……もしかして、水原香澄さんを死なせたのはあなたなんですか?」
「まさか。勝手にあの女が自殺したの。わたしのせいじゃない」
「回りくどい言い方はやめろ」
それまで黙っていたホタルが尖った声で切りこんだ。
全身から、びりびりと怒りが伝わってくる。
そのホタルを見つめて福田のぶえが目を細めた。
「……ああ、ほんとに似てる。若い頃の彼そっくり」