それでも僕が憶えているから
「………」
ホタルがつかんでいた胸倉を離すと、福田のぶえは足をよろめかせながら、しばし咳き込んだ。
雨に濡れたセミロング髪が重そうに垂れている。
「……なんで」
唸るような低い声。
噛みしめた唇から、うっすらとにじむ血。
「なんで、わたしを愛してくれなかったの……?」
怒っているのか、泣いているのか、それとも笑っているのか。
感情がわからないほど顔を歪め、福田のぶえはうわ言のように言葉を吐き出した。
「子どもの頃からずっと好きだったのに……あなたはわたしをただの従妹としか見てくれなかった。
でもね、別にそれでもよかったの。どうせ将来は好きでもない女と政略結婚するのが決まっていたんだから。
だったら仕事でサポートしてあげられるわたしが、誰よりもあなたに必要とされている女だと思ってた。
……なのに! なのにどうして、後から出てきたあんな女を愛したの!?」
福田のぶえがホタルの腕を強くつかんだ。
さっきまで焦点の合っていなかった瞳が、はっきりとホタルを睨んで見開いていく。
「お前のせいだ!! お前が生まれたせいで、彼はあの女から離れられなくなったんだ! お前さえ生まれなければっ……!」