それでも僕が憶えているから
「やめて、福田さん!」
生まれなければよかった人なんていない。
ホタルも、蒼ちゃんも、わたしも、そして福田さん自身も。
「うるさいっ、お前なんか――」
「やめろ!!」
遠くで声が響いた。
一斉に振り返ったわたしたちの目に、驚きの光景が映る。
こちらへと走ってくる凪さんと共に、もうひとりの男性がいた。
雨に濡れるのも気にせず一心不乱に駆け寄ってくるその人は、たしかに萩尾さんだった。
「やめろ、のぶえ!」
「……っ」
わずかに怯んだ福田のぶえに、萩尾さんがさらに叫ぶ。
「息子から手を離せ!」
「……ああ……」
福田のぶえが絶望の声をもらし、へなへなとその場に崩れ落ちた。
まるで踏みつけられた枯れ草のように、地面に座りこみ、深く頭を垂れてゆく。
わたしはホタルと目を合わせ、ようやく緊張の糸を解いて息を吐いた。
助かったんだ――。
「ふたりとも大丈夫?」
たどり着いた凪さんが、息を切らしながら尋ねてくる。
「はい。何とか」
わたしは答え、そして萩尾さんを見た。