それでも僕が憶えているから
「大丈夫か!?」
返事ができない。
頬に打ちつける激しい波。何度も体が沈みかけては浮上し、目や口に海水が飛びこんでくる。
「真緒、つかまれっ」
引っ張られた手が、岩のごつごつした感触をつかんだ。
水流に抗うように背中を押し上げてもらいながら、わたしは必死で岩をよじのぼる。
濡れた服が恐ろしく重い。上から鉛を垂らされているみたいだ。
あちこちに切り傷を作りながらも、どうにかわたしの体全体が岩に乗った。
「……ホタ、ル……っ」
ぜいぜいと呼吸しながら、まだ海の中にいるホタルに声をかける。
ホタルは両手で岩の端をつかみ、かろうじて流されないように保っている状態った。
「あんた、まさかわたしを助けるために飛びこんだの?」
裏返った声で尋ねると、ホタルの顔にいつもの皮肉な色が浮かんだ。
「そりゃあ、あんな風に目の前で落ちられたらな」
「バカ!!」
突然怒鳴ったわたしに、ホタルが目を丸くする。