それでも僕が憶えているから

「助けてもらっといてバカ呼ばわりは何だ」

「バカだよ、バカ! だってあんた、水が怖いくせに!」


必死で強がっているけど、本当はものすごく怖いはずだ。

なのに、わたしのために。
わたしを助けるために……。


「バカバカうるさいな。お前らみたいなバカと一緒にいたから、うつったんだ」

「減らず口叩いてる暇があるなら乗って!」


ホタルも早く海から出るようにと促したものの、そんなスペースがないのは明らかだった。

海面から突き出たわずかな岩は、わたしひとりで乗るのもギリギリの小ささだ。

そのとき、ひときわ大きな波が岩を砕くように襲ってきた。


「――っ!」


ホタルの体が一瞬浮き上がり、次の瞬間、ブラックホールに飲みこまれていくように遠ざかった。


「ホタルっ!!」


力の限り伸ばした指先がかろうじて届いた。

自分の体ごと持っていかれそうになるのを、もう片方の手で岩の突起にしがみついて必死に耐える。
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