それでも僕が憶えているから

「……っ」


今、ふたりをつなぎとめているのは手だけだ。
わたしの右手と、ホタルの左手。

この状態からホタルを引っ張り上げるのは、わたしの力では無理があった。

だけど一度波にさらわれた彼の体はコントロール不能になり、荒波に翻弄されている。


「ホタル、しっかり……!」


わたしは歯を食いしばった。

絶対、絶対死なせない。ホタルが生まれたこの海を、これ以上悲しい場所にしちゃいけない。


「ホタ――」


また大きな波が襲った。つないだ手が引っ張られ、体の右半分が海面と同じ角度まで傾いていく。

踏ん張った膝の皮が剥け、岩の突起にしがみついた左手の平からも血が流れている。


「真緒っ……お前まで落ちるぞ」


海水を飲んでむせながらホタルが言った。


「落ちないよ、こんなの、どうってことない」


気丈に否定しながらも、両腕は痙攣し始めている。


「ねえホタルっ……大和がね、また射的しようって言ってたよ。あんたのこと好きな人、この世界にいっぱいいるんだよ」
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