それでも僕が憶えているから
『ホタルが消えれば、蒼はまた泳げるようになる』
以前、凪さんもそんなことを言っていた。
つまり今、ホタルは自分の存在と引き換えにわたしを助けようとしているの?
――嫌! そんなことさせるわけがない。
ホタルは、大嫌いな海に飛びこんでわたしの手をとってくれたんだ。
今までも幾度となく守ってくれた。
なのにわたしが、この手を離すわけがない。
「ねえ、そんな悲しいこと言わないで、嫌だよ……!」
わたしの腕の感覚はすでになくなっていた。
つかまった岩の突起から、ぱらぱらと粉が落ちていく。
何もかもが、もう限界を超えている。
だけど離さない。
絶対、絶対、失いたくない。
一緒にいるって決めたんだ。
これからいっぱい、ホタルを幸せにするって――。
「真緒」
波の合間に、やさしい声が聞こえた。
「泣くな」
「………」
「僕は悲しくなんかない。僕は今、幸せなんだ」
どうして、笑うの。
自分の存在が消えようとしている今、どうしてあなたは、笑って幸せだなんて言うの。