それでも僕が憶えているから

「ホタ……」


名前を呼び終わるより先に、彼はそっと目を閉じた。

とても静かで、満ち足りたような笑顔だった。


絡まっていた指から力が抜け、左手がするりと抜けていく――。



「僕の手が、最後に大切な人を守れてよかった」



消える間際に聞いたその声は、“さよなら”よりも切なかった。







ああ、そうか。

ホタルは帰っていくんだね。


あなたが生まれたこの海に。


たくさんの、この世界で作った思い出を抱えて、笑顔で帰っていったんだね。





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