それでも僕が憶えているから



海に飲みこまれた黒い髪が、しばらくするとまた海面に現れるのが見えた。

荒波の中をしなやかに泳ぎ、こちらへと向かってくるその人は、もう彼じゃなかった。




『あんたの名前は?』


『僕は……ホタル』




わたしの17歳の夏に閃々と輝き、そして消えていった光。

その名前を、わたしは何度も小さく呼んだ。








        ~Chapter.5

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