それでも僕が憶えているから
epilogue
《エピローグ》
玄関のドアを開けると、空が透き通るように青く澄んでいた。
アパートの前に植えられた桜の木では、今朝もセミの大合唱だ。
「お母さーん。今日は買い物、あるー?」
確認し忘れていたことに気づき、部屋の中に声をかけると、お母さんが夏物のジャケットを羽織りながら玄関まで出てきた。
「そうね、キッチンペーパーとシャンプーの詰め替えをお願い。
あ、そういえば真緒」
「ん?」
「会社の人から博多土産のめんたいこをいただいたの。今夜は美味しいパスタを作るから、よかったら蒼くんたちも一緒にどう?」
その言葉にわたしは微笑み、肩をすくめた。
「残念。今週は蒼ちゃん、部活の合宿に行ってるんだ」