それでも僕が憶えているから


あれから、一年が過ぎた。


わたしとお母さんは昨年の秋に家を出て、今は小さなアパートでふたり暮らしをしている。

お母さんは近くの会社で事務員として働き、受験生であるわたしは週に2日だけアルバイト。

裕福ではないけれど、それなりにやっていける生活だ。


乾さんとお母さんの再婚の話はなくなった。

跡継ぎになれないとわかったとたん、乾さんはあっさり退職し、おじいちゃんの会社の首都圏進出も白紙になった。

家族と部下が一気に離れたことで、さすがのおじいちゃんも少しはしおらしくなった、と思う。

正直、まだまだ確執は残っているけれど。


わたしは自分の気持ちを大切にしながら、いつかおじいちゃんとも笑える日が来たらいいな。

そんな風に考えている。


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