それでも僕が憶えているから

そして蒼ちゃんは、また水泳を始めた。

大和と同じ水泳部でエースとして活躍し、今週は合宿で他県に行っている。

春の大会では見事優勝し、そのときは萩尾さんと花江夫妻が同じ席で応援してくれた。


将来有望な水泳選手、花江蒼のことを、もう誰もブランクがあるだなんて思わない。

一年前のあの日々は、今となれば遠い昔のことだった。



   * * * 




「お疲れさま、茅野さん」

「お疲れさまでーす」


夕方、アルバイトを終えたわたしは買い物をすませると、お気に入りの青い自転車で帰り道を走った。

いつもなら、このまままっすぐ帰るところ。
なのに突然、海に行ってみたくなったのは、“あの日”から今日でちょうど一年だからだろう。

公園の前に自転車を止め、草木の生い茂るフェンスを越えると、なつかしい光景が広がっていた。
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