それでも僕が憶えているから
「変わってない……」
昨年の夏、真夜中に家を飛び出したわたしが、蒼ちゃんに助けられて夜光虫を見せてもらった海。
もしあの出来事がなければ、蒼ちゃんと深く関わることはなかったし、そして彼と過ごした日々もなかっただろう。
わたしは桟橋に座り、夕焼けを眺めた。
そのまぶしさに目を細めながら、左手首のブレスレットにそっと触れた。
――蛍石。
一年前の今日、永遠に会えない場所に行ってしまった彼が、唯一残してくれたもの。
それは移り行く時間の中で、今日もわたしと共にある。
「あいつ、今も笑えてるかな」
つい感傷的なことをつぶやいてしまったけれど、一年の節目だから自分を許すことにした。
そのとき、背後でフェンスの揺れる音が響いた。
「……っ」
わたしは振り返り、大きく目を見開く。
さらさらと揺れる黒い髪。
細いシルエット。
一瞬、彼が戻ってきたのかと思ったけれど、もちろんそんなわけがなかった。