それでも僕が憶えているから
弾き飛ばされるようによろめいたわたしを、誰かの腕がすばやく支えてくれた。
おかげで転びはしなかったものの、ばさばさっ、という音が足元で響く。鞄の中身が床に散乱してしまったのだ。
しかもそれはわたしだけじゃなく、ぶつかったらしい相手のカバンも同様だった。
「すみません……!」
悲惨な状態の床から視線を上げたわたしは、思わず息をのんだ。
いつも遠目に見ていた花江くんの顔が、すぐ目の前にあったから。
「大丈夫?」
品のいい切れ長の瞳が、心配そうにまっすぐこちらを見つめてくる。
「あっ……はい、大丈夫です」
うわ、わたし、同級生なのになんで敬語になってんの、恥ずかしい。
うろたえるわたしとは裏腹に、彼は「よかった」と柔和に微笑むと、散らばった教科書や筆記用具を拾い始めた。
わたしも屈みこんで散乱物をかき集める。