それでも僕が憶えているから
「うわあ。全然知らなかった」
「それって蒼ちゃん、家では勉強してませんって白状したね」
千歳がつっこみ、蒼ちゃんがカクンとうなだれた。
コミカルなその仕草は親しみやすくて、さっき一瞬だけ感じた異変は、やっぱり気のせいだったんだろう。
「はい、真緒」
「ありがとう」
蒼ちゃんから教科書を受け取り、わたしも自分のカバンから彼の教科書を取り出す。
そのとき、想定外のことが起きた。
ページの間から白い封筒がするりと抜け落ちて、わたしの鞄の中に留まってしまったのだ。
彼の教科書にはさまっていた、あの手紙。
すぐに鞄から取り出そうとしたものの、なんとなく千歳の前で出すのは気がひけて、一瞬迷った末に教科書だけを蒼ちゃんに渡した。
手紙はまたこんど、誰にも見られない時にこっそり返そう。
そう思いながら……。