それでも僕が憶えているから
*
《3》
宛名のない手紙。
左手の古い傷。
兄弟がいた、という言葉。
蒼ちゃんの断片だけをわたしは少しずつ知ってゆき、だけどその意味するところを、まったく理解していなかった。
蒼ちゃんが笑顔の下で何を抱えていたのか。
そして、それによってわたしが出会うことになる、“彼”のことを――。
* * *
「昨日はありがとう」
お見舞いに行った翌日の昼休憩。廊下に近いわたしの席で、千歳とおしゃべりをしていたら、窓からひょこっと顔が現れた。
「蒼ちゃん!」
わたしと千歳が同時に声をあげる。
「風邪、もういいの?」
「うん。おかげさまで元気すぎて、ズル休みだったんじゃないかって疑惑かけられてる」
まいったという表情の蒼ちゃんに、千歳が笑った。