それでも僕が憶えているから
そこで休憩終了のチャイムが鳴った。
「じゃあ」と蒼ちゃんが踵を返し、千歳も物足りなさそうな顔で席に戻っていく。
「あっ、蒼ちゃん」
歩いていく背中を、わたしはとっさに呼び止めた。
振り返った彼と目を合わせながら、机の中にそっと手を入れる。
指先に触れる、紙の感触。
昨日返しそびれたあの手紙だ。
が、やっぱり今も周囲に人が多すぎるな、と思い直して手を止めた。
「ううん。何でもない」
ごまかすわたしに蒼ちゃんは小首をかしげたものの、特に追求することなく自分の教室に戻っていった。
* * *
その日はそのまま放課後を迎えた。
明日から期末テストなので図書室で少し勉強をして、帰りの駅に着いたのは夕方6時頃だった。
運悪く電車が行ってしまったあとで、次の電車が来るのは20分後。
わたしはベンチに腰をおろし、ぼんやりと時刻表を眺めた。