それでも僕が憶えているから

おさまらない動揺を隠しながら、ちらっと花江くんの方を見た。

床に落ちた物を拾っているだけなのに、彼の所作は美しく、ひとつひとつの動きがサマになっている。

そのときだった。

……あれ?

彼の左手の甲に一本のいびつな線が入っていることに気づき、わたしは思わず凝視した。

何だろう……傷あと?

白磁のようになめらかな肌の中で、そこだけが不自然に目立っている。色は周囲の皮膚とほぼ変わらないから、おそらく古い傷だろうけど。

無遠慮な視線に気づいたのか、花江くんがこちらを向いた。
わたしはとっさに目をそらし、ごまかすように声をかけた。
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