それでも僕が憶えているから

蒼ちゃんだ……。

久しぶりに会った蒼ちゃんは、まぎれもなくわたしの知っている蒼ちゃんだった。

暑い中走って来たらしく、汗だくで息を切らしている。表情にはいつもの余裕がない。

そんな姿を見るのは初めてだったけど、それでもこの人は間違いなく蒼ちゃん本人だと、理屈抜きに一目でわかった。


   * * *


「蒼、彼女を駅まで送ってあげなさい」


しばらくしてからおじさんがそう言ったので、わたしは蒼ちゃんと一緒に病室を出た。
わたしの自転車は、後日おじさんが車で運んでくれることになった。


ワゴンカートを押して歩く清掃員や、花束を抱えたお見舞い客が行き交う廊下。
自販機のそばのフリースペースでは、お年寄りの入院患者たちが将棋を楽しんでいる。
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