それでも僕が憶えているから
西日に照らされた駐輪場は、視界が歪むほどの暑さだった。
隣に畑があるせいか蝉の鳴き声がおびただしい。
畑との仕切りに立てられた金網フェンスが、切り絵のようにくっきりとした菱形模様の影を地面に描いていた。
「蒼ちゃん」
自転車に鍵を差しこむ蒼ちゃんの背中に、わたしは思いきって声をかけた。
「前に蒼ちゃん、兄弟がいたって言ってたよね?」
彼の肩がかすかに揺れた気がした。
カチャン、と軽い金属音がして自転車の鍵が解ける。
ゆっくりと蒼ちゃんが振り返った。
その顔は、どことなく不自然な笑顔だった。
「ああ、あれ、特に意味はないから忘れてくれていいよ」
「でもおばさんに聞いたら、何か心当たりがありそうだったよ」
瞬間、彼の顔から表情が消えた。その反応を見てわたしは確信した。
やっぱり、蒼ちゃんも何か知っているんだ……。