それでも僕が憶えているから
「……誰なんですか、あなた」
声に出して問いかけると、とたんに拒否反応がわたしの中に湧き上がった。
自分は何をふざけたこと聞いているんだ、と。
さっきから確かに蒼ちゃんと話していたじゃないか。
なのに「誰」なんて、聞くこと自体がおかしすぎる。
けれど、そのおかしな質問は彼によって棄却されることなく、思いがけない言葉が返ってきた。
「僕は蒼じゃない」
ゆらり、と不気味な動作で小首をかしげ、わたしの顔をのぞきこむ。
「あいつとは別の人格だから」
意味を理解しようと頭が動き出すまで、しばらく時間がかかった。
ようやく動き始めても、まともな思考はできなかった。
別の人格。
ただその一言だけが耳にこびりつく。
別の、人格……?
「まさか」
彼を見上げて、小さな声で言った。
「多重人格って言いたいの?」