それでも僕が憶えているから
わたしの声には無意識に苦笑が混じっていた。同時に、どっと力が抜けた。
だって多重人格なんて、実在するのかどうかも疑わしい病気。
わたしにとっては幽霊とか宇宙人の類と同じくらい非現実的で、ドラマや漫画の中だけのネタでしかない。
そうか、とわたしはようやく気づいた。
うっかり騙されそうになったけど、蒼ちゃんはわたしをからかっているんだ。
これまでの奇妙な言動も、手のこんだドッキリみたいなものだろう。
「ふふ。冗談きついよ、蒼ちゃん。もういいから普通にして」
シュッと風を切る音がした。
あまりの動作の速さに、一瞬何をしたのかわからなかった。
肩の高さで半円を描くように振った彼の左腕。
そこにはフェンスの一部が破れて剥き出しになった針金があり、彼の白い腕に傷がつく。
いや、わざと傷を作ったのだ、彼は。
「きゃあっ……!」
わたしは悲鳴を上げた。口元を覆う両手が震えた。