それでも僕が憶えているから

彼の肘から手首にかけて10センチほどの赤い線が走り、そこから絵の具のようにじわりと血がにじむ。


「発言に気をつけろ。今この体は誰がコントロールしていると思ってる?」

「……っ……」


心臓が大きく波打つように鼓動し、膝が震えた。
何が起きているのか、まったくわからなかった。

まるでオバケ屋敷で本物のオバケに遭遇したような。
オモチャの銃で遊んでいたら実弾が飛び出したような。

虚構と現実が、突如反転してしまった世界。

ぐちゃぐちゃに混乱する頭を必死に働かせ、わたしは目の前の彼を見た。

整いすぎた顔立ちは、普段の蒼ちゃんの笑顔がないだけで急に冷酷さを帯びる。
顔の造りは同じなのに、放つオーラは正反対だ。

……この人は本当に、蒼ちゃんの別人格なのだろうか。

そんなことが実際にありえるんだろうか。
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